「変われ自民党」のスローガンは本物か? 候補者の“変節”に見る総裁選の深層

ビジネス&政治

2025年の自民党総裁選が9月22日に告示され、10月4日の投開票に向けて火蓋が切られました。 党再生をかけた今回の選挙戦で、自民党広報本部が掲げたテーマは「#変われ自民党」。 しかし、立候補者の顔ぶれは昨年と全く同じ5人。 国民の目には、このスローガンが真の変化への意志なのか、それとも単なるイメージ戦略なのか、見極めが難しい状況に映っています。今回の総裁選は、候補者たちの政策スタンスの微妙な変化、そしてその背景にある自民党の厳しい政治的現実にこそ、本質が隠されています。

政治空白への批判と「変わる必要性」のアピール

今回の総裁選に至る背景には、今年7月20日の参院選での与党過半数割れという厳しい現実があります。 この結果を受け、党内では混乱が生じ、事実上の「石破おろし」へと発展。結果として、参院選から3ヶ月近くにわたる「政治空白」が生まれることになりました。この状況に対し、立憲民主党の本庄知史政調会長は「結局、参院選から3か月、政治空白ということじゃないですか」と批判の声を上げています。

こうした国民や野党からの冷ややかな視線を意識し、自民党はイメージ刷新に必死です。平井卓也広報本部長と牧島かれんネットメディア局長は、党のTikTokライブで「#変われ自民党」と書かれたTシャツを披露し、「変わる必要」をアピールしました。 しかし、その一方で論戦の主役となる候補者たちの主張からは、むしろ「変化」とは逆行するような、独自色を薄める動きが見え隠れしています。

同じ顔ぶれ、異なる主張:なぜ候補者は“変節”したのか

今回の総裁選は、茂木敏充前幹事長、小林鷹之元経済安保担当相、林芳正官房長官、高市早苗前経済安保担当相、そして小泉進次郎農林水産大臣の5人による争いです。 驚くべきことに、この5人は昨年の総裁選にも立候補しており、全く同じ顔ぶれでの再戦となりました。 しかし、彼らの主張は1年前とは明らかに異なっています。かつての「尖った政策」は影を潜め、より穏健で控えめな姿勢が目立つのです。

小泉進次郎氏:選択的夫婦別姓をめぐる態度の軟化
昨年、「私が総理になったら選択的夫婦別姓を認める法案を国会に提出する」とまで明言していた小泉氏。 しかし、今年は「考えが変わったことはありませんが、政治の役割というのは政策の優先順位を明確にして取り組むことでもある」と述べ、公約に盛り込むことや優先課題とすることには慎重な姿勢を見せました。党内融和を優先し、かつての看板政策を事実上、後退させた形です。

高市早苗氏:靖国神社参拝への言及を避ける
保守層から強い支持を受ける高市氏も同様です。昨年は、総理の立場での靖国神社参拝について「閣僚である間もずっと続けて参りました。これからも続けていきたい」と明確な意欲を示していました。しかし今年は、「国のために命を捧げられた方というのは大切な存在であり、感謝の気持ちは決して変わりません」と述べるに留め、参拝を継続するかの明言は避けました。

このような候補者たちの“変節”の背景には何があるのでしょうか。TBSテレビ政治部の岩田夏弥部長は、二つの要因を指摘します。

  1. 党内力学の変化:昨年の総裁選では、各候補がそれぞれ「尖った政策」を掲げましたが、結果として勝ちきれなかったという反省があります。今回は、党内の幅広い支持を得るために、あえて対立点をぼかし、失点を避ける戦略にかじを切っているとの見方です。
  2. 衆参での「少数与党」という現実:参院選で過半数を割り込んだことで、自公連立政権は法案を単独で通すことができなくなりました。 次期総理は、日本維新の会や国民民主党といった野党の協力なしに政権運営は不可能です。そのため、野党との連携を視野に入れ、極端な政策や対立を生むような発言を控えているという分析です。立憲民主党の野田佳彦代表も「(候補者たちは)特に野党のことも意識した主張が出てきている」と、この変化を指摘しています。

問われる本気度:国民不在の論戦に終わらないか

党内事情や国会対策を優先するあまり、候補者の独自色が見えにくくなっている今回の総裁選。 しかし、国民が直面している課題は待ったなしです。物価高、伸び悩む賃金、そして長期的な日本の国力低下といった深刻な問題に対し、各候補がどのようなビジョンを持っているのか、その本質が問われています。

コメンテーターの寺島実郎氏は、「有権者の1%に過ぎない党員と、国会議員の4割の自民党議員で首相を決めるという政党の論理と、国民の意思との間には大きなギャップがある」と警鐘を鳴らします。

総裁選は10月4日に投開票が行われ、新しい総裁が誕生します。 「変われ自民党」のスローガンが、単なる選挙向けのキャッチフレーズで終わるのか、それとも真の党改革と国民本位の政策実現への第一歩となるのか。候補者たちには、内向きの論理に終始することなく、国の未来を託すに足る明確な国家像と覚悟を示すことが強く求められています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました